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「キャプテンに出会えてよかったです。私はもうキャプテンがいなければ生きられない」

 それは宴も終盤に近付き、まともに意識を保っているのが私とキャプテンだけになった時のことだった。私はどうも飲む気になれなかった。浮浪児からキャプテンに拾ってもらい、ずっと恩返しをしたくて努力してきた。それが今日「助かった」という言葉で報われたからだ。キャプテンは大した返事もせず酒を飲んでいた。この日のことはクルーとしての信頼度が上がったものとして処理していた。

「お前のあの時のこと、考えてやる」

 数日後、唐突にキャプテンは言った。何のことかわからない私に、「お前と付き合うかどうかだ」と続ける。漸くあの日のことを思い出した。確かに感情が乗って恋愛めいた言葉になってしまったが、私はそのつもりではない。

「あれは告白ではない……んですよね……」

 恐る恐る口にすると、キャプテンの鋭い瞳がこちらを向く。

「いや、好きだっていう気持ちは本当なんですけど! あの時はただ感謝しただけっていうか」

 私はキャプテンを好きではあるのだ。その気持ちは敬愛でもあるし、恋愛でもある。好きだというのは間違いないが、別に私はキャプテンの恋人になりたくて言ったわけではない。むしろ、船内で恋人を作るなど自殺行為だと思っている。

「じゃあおれが舞い上がった浮かれ野郎だと言いてェのか?」
「そんな別に……浮かれてたんですか!?」

 私がキャプテンを見上げると、キャプテンは「フン」と言って視線を逸らしてしまった。キャプテンは、私の告白で舞い上がるのか。どうしよう、付き合いたくないのに付き合ってしまうかもしれない。好きなのは私の方のくせに、私は随分と偉そうなことを考えていた。