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「お前、ホント飽きねぇなー」
「私が佐久早先輩に飽きることはありません!」
「佐久早じゃなくて告白することにだよ」

 古森先輩が腹を抱えて笑う。その奥で、佐久早先輩が用は済んだとばかりに体育館を立ち去っていた。

 私は中学でバレーボールをしていた経験を活かし、高校では男子バレー部のマネージャーになった。そこでエースの佐久早先輩に一目惚れをした。初めこそ自分の気持ちを隠していたものの、佐久早先輩の全てを見通したような「鬱陶しい」という目を受けてからは直接愛を伝えるようになった。佐久早先輩に告白してフラれるのがもう何回目かも数えていない。佐久早先輩は私の告白をオーケーすることはないけれど他の誰かと付き合うこともしないので、少しは可能性があるのではないかと思ってしまう。春高で優勝でもしたら、佐久早先輩も頷いてくれるのではないだろうかと思っていた。

「……今日は言わないんだな」
「だって……」

 佐久早先輩の選手生活最後の日、私はとても愛の言葉など口に出せなかった。佐久早先輩率いる井闥山高校は、準優勝で終わった。これが佐久早先輩の高校生活最後の試合だった。引退式を終えた後最後の点検に体育館を訪れると、佐久早先輩が一人体育館の天井を見上げていたのだった。

「お前、何で俺が毎回フってたのかわかるか」

 つい先程佐久早先輩の高校でのバレー生活が終わったばかりだというのに、佐久早先輩はそんなことを聞く。私は泣きそうになりながらも、必死に頭を巡らせた。

「私に興味がなかったから?」
「部内恋愛はご法度だからだ」

 佐久早先輩は初めて私の方を向いた。その顔は何か憑き物が落ちたようでもあった。佐久早先輩は、部内恋愛であることを気にして私をフっていたのだ。明確にルールで決められているわけではないけれど、チームのエースともなれば振る舞いには気を使うだろう。つまり、今まで私達の間には障害があったのだ。

「佐久早先輩は、私のことが好きだったんですか……?」

 呆気に取られて呟く。もはや涙も引っ込んでいた。佐久早先輩はてっきり「調子に乗るな」とでも言うと思っていたけれど、主将然とした振る舞いで「いいから早く告白しろ」と言った。この二年間あれだけ私を鬱陶しがっていた佐久早先輩が、私の告白を待っている。佐久早先輩はいつから、私のことを特別に思うようになったのだろう。聞きたいことは山程あるが、今私に許された言葉は一つしかない。

「好きです、佐久早先輩。付き合ってください」

 何百回と繰り返した言葉を口に出すと、佐久早先輩が初めて私の手を引いた。