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 私の誕生日が来た。ということは二宮さんが何かする気だとは思っていた。しかし、こんなラブコメ漫画のヒロインのようなセリフを言うとは思わなかったのだ。

「何でもお願いを聞いてやる」

 仁王立ちしているのは、身長が一八〇を超えた大男である。可愛げの欠片もない。私は恐る恐る口を開いた。

「普通そういうプレゼントは胸の大きい女の子とか……あといい感じの仲の異性がするものではないでしょうか?」
「俺とお前はいい感じではないのか」

 二宮さんの口から「いい感じ」という言葉が出るだけでもかなり面白いのだが、私の言葉に即座に反応するのもまた意外だ。二宮さんが私に対してむきになるようなことなど、ないと思っていた。

「いや……今のところ二宮さんが一方的に好きなだけですし……」

 少しの沈黙が訪れる。二宮さんは別に気まずいとも思っていないのだろう。本来二宮さんの方が気負うべきなのだが、何故か私が冷や汗をかいている。

「お前は俺を好きにならないのか?」
「私のこと好きなら誰でもいいわけではないですよ! 優しくて気が利いて……あとドアをうるさく閉めたりしない人がいいです」

 最後のはかなり現実的な好みになってしまった。けれど重要なのだ。不機嫌を露わにする人は嫌だと、私は父親の仕草から学んだ。

「じゃあお前のお願いはそれだな。聞いてやる」
「別に二宮さんに言ったわけじゃ」

 ない。あくまで私の理想である。それに二宮さんがなる必要はない。言いたいことは沢山あったが、それを遮って二宮さんが小さな袋を差し出した。

「あとプレゼントだ」
「プレゼントあるなら言うこと聞く必要なくないですか!?」

 二宮さんは「フン」と言って何も答えない。私が二宮さんに何をしてほしいのか知りたかった、というところだろうか。この男、結構リサーチがまめである。私は大人しく二宮さんからのプレゼントを頂くことにした。頂くからには、私も二宮さんの誕生日に何かしらをあげなくてはならない。関係性上困るところではあるけれど、とりあえず「お願いごとを聞く」ではないことは確かだ。二宮さんは私にそう言われても無理なお願いをしないだろうが。

 私って結構二宮さんのことを信用してたんだな、とふと気が付いた。だからといって、何が起こるわけでもないけれど。