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 イレギュラーな任務だった。私達は休みなのに出勤を余儀なくされたし、そもそも私とアキくんはバディですらなかった。それでも私達の間に遠慮というものはなく、定食屋の椅子に腰掛けるなりアキくんは煙草に火をつけた。煙草は嫌いなのだけど、私は笑顔を崩さなかった。

「私、お金がないからデビルハンターになったんだ」

 マキマさんからの指令が来るまでの暇潰し、とは思っていなかった。どうせならアキくんと仲良くなっておきたい。私のことを知ってほしかったのだ。

「風俗で働いたらどうですか」

 アキくんは興味なさそうに言った。煙草の先から白煙がゆらゆらと揺れている。

「風俗で働いたらアキくん来てくれる?」
「まあ行きませんね」

 普通、仕事の先輩に風俗を薦めたりしないだろう。私は親しまれているのではなく、馬鹿にされているのだ。だけどそれでいいと思った。アキくんが私と話をしてくれるなら。

「じゃあやっぱりデビルハンターのままでいる」

 私が言うと、アキくんは眉を顰めて私を見た。心外だとでも言いたげな表情だ。アキくんは私に公安に留まってほしいと思っているのではない。見下している先輩に可能性を見出されることが、嫌なのだ。

「同僚だからってセックスするわけじゃないですよ」

 アキくんの言葉は必ず、といった意味合いを含んでいなかった。アキくんがマキマさんや姫野さんと懇意にしていることは知っている。もしかしたらセックスもしているのかもしれない。私がその対象に入らないというだけで。

「いいの、一緒に働けたらそれで」
「……気色悪い」

 私の愛は純粋だと思うのだけど、アキくんからしたら歪んでいるようだった。歪んでいるのはアキくんだよ、と教えたらアキくんは嫌がるだろうか。とうに知ってます、くらい言いそうだ。アキくんの歪みを正そうとしない私もまた、どこかがずれているのだった。