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 名簿順の席というのは大事なものだ。言わずもがな年初の席順であるし、席替えをしても定期テストの時には戻ることになる。私は教室の窓際にいるのに対し、牛島くんは壁際だった。仕方ない。私達の苗字は離れているのだ。

「牛島くんと席近くになりたい! あ行の苗字がよかった!」

 牛島くんの後ろの席に座り嘆く。今は休み時間であるため、席の主は他クラスへ出かけていた。牛島くんは私のことなどどうでもよさそうだが、一応体を傾けることはしてくれている。

「俺と結婚しない限り無理だろう」

 あまりにも真面目すぎる回答が、逆にときめきを生む。しかし牛島くんがお誘いのような気持ちでそう言ったのではないことはわかっている。

「流石の私もそこまで考えてないよ……ていうかもう結婚とかなったら席の近さどうでもいいよ」

 学生結婚など現実的ではない。私だって牛島くんと話すために結婚しよう、など思わない。結婚できるレベルなら席が近くなくても話せるではないか。

「俺は結婚するにあたって別姓は認めない」

 牛島くんは凛とした顔で言い放った。それは男女別姓を認めつつある世の中に対しての自分の意見なのだろうが、そういった言葉は結婚の際に言われたい。

「それプロポーズする時に言ってよ!」

 私が叫ぶと、「お前にプロポーズはしない」と不思議そうに言われた。わかっていたことだけど、無駄に心を揺らさせないでほしい。私は机に突っ伏した。