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「私の彼氏ってDVする人でね、殴る蹴るもするんだけど、メインは経済的DVの方。だからデビルハンターになったんだ」

 私達は任務で初冬の街を歩いていた。私達はこれから悪魔を殺すところだったし、手には武器を持ってすらいた。到底恋愛の話をするような雰囲気ではない。しかしアキくんはじっと聞いていた。何の反応もないので聞き流している可能性もあるけれど、アキくんが私の話に耳を傾けないはずがないのだ。

「私の彼氏殺したい?」

 私は意地悪に問う。アキくんがそういった物騒な欲求を口に出すことを躊躇う人ではないと知っている。私はアキくんに好かれていると知っていて、アキくんを試したかった。案の定アキくんは平たく返した。

「殺したら苗字さんは公安やめちゃうじゃないですか」

 アキくんは取り乱す様子もない。まるで自分の選択肢の中に初めからそれが入っていたかのような冷静さだ。

「じゃあ一緒に殺して一緒に住もうよ。悪魔との戦闘に巻き込まれたことにしてさ」

 もはや私は彼氏を殺すことに躊躇がなかった。この場で誰も躊躇っている人はいなかった。アキくんの落ち着きようがその証拠だ。

「パワーとデンジがいます」

 そういえば、アキくんは新人の面倒を見ているのだった。一緒に住めないことがわかって、私は肩を落とす。アキくんは相変わらず早足で歩いたまま、背中越しに告げた。

「俺はアンタが幸せそうに一般人やってるより、殴られながら俺と一緒に働いてくれた方がいいんです。これからも殴られてください」
「酷いこと言うなぁ」

 そう言うのは口だけで、実は結構喜んでいた。アキくんが私の反応など見ずに歩いていてよかった。人混みの中で、私は小さく唇を食んだ。