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 その日は至って普通のデートのはずだった。俺の家で適当に映画を観る。エンディングを流し見ながらスーパーで買ってきた惣菜を温めてテーブルに出す。名前が口を開いたのは、美味しそうだからと買った特大の唐揚げに箸を伸ばしている時だった。

「聖臣が日本のチームにいるの、私のせいだったら別に気にしなくていいよ」

 俺は少なからず動揺した。現に俺の箸は止まったし、映画を観ていた時から作られている俺の中の穏やかな感情は砂のように崩れ落ちている。ここでみっともなく縋るのではらしくない。俺は努めて冷静に声を出した。

「何で?」

 声に不安が滲み出ていただろうか。俺の不安を吹き飛ばすように、名前が元気な笑顔を見せる。

「私が会社辞めてついていくから!」

 俺は箸を置いて頭に手をやった。知ってはいたが、本当に人騒がせなやつだ。海外移籍も多いバレーボーラーの彼氏に好きにしていいと言うのは、普通別れだと思うだろう。放っておいてくれと言われているのかと思った。俺は乱暴にナムルを箸で掴む。

「何で結婚もしてないのに勝手についてくる気なんだよ」

 俺はついてきてほしいなんて言っていないし、第一移籍も考えていない。照れ隠しのように声を尖らせる。

「だって聖臣私のこと好きでしょ?」

 そう言われてしまえば何も言えなくなってしまい、俺はナムルとご飯を口の中で咀嚼した。俺がついてきてほしいと思っていることなどお見通しというわけだ。とはいえ、改めて話したことはなかったので名前の気持ちが知られてよかった。

「今後の参考にする」

 主に人生計画についての。名前は嬉しそうに頷いた。今俺が考えていることが移籍ではなく結婚だなど、名前は思いもしていないだろう。