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 今回の任務は潜入捜査の中でも性を使うものだった。実際に性行為をするわけではないが、ターゲットをその気にさせ、恋人として振る舞う。当然、私もターゲットを好きなふりをする必要がある。

「本気で好きになったらどうしよう……」

 私の手にはターゲットの写真が握られていた。紙の中で微笑む彼は、結構な美形である。私本人の恋路も変えられてしまったらそれは困るのだ。私の横で行程をチェックしていた降谷さんが、ふと告げた。

「お前が好きなのは僕だろ」
「両思いだったんですか!?」

 私は反射のように返した。降谷さんは興味なさそうにしていたが、私の金切り声を聴くと迷惑そうに書類から顔を上げた。最後の確認中の降谷さんでも、そのままにしておくことはできなかったようだ。

「事実として認めてるだけだ。お前は一途だろう」

 降谷さんが一途だと買ってくれていることが意外だった。けれど今は喜びよりも不安の方が勝つ。降谷さんが認めるほど長くしてきた片思いが、途絶えてしまうかもしれないのだ。

「熱したらなかなか冷めないっていうだけで……私イケメンならわりと誰でも……」

 今度大きく反応したのは降谷さんだった。

「僕とあいつが同列だって言うのか!?」

 その勢いは鬼気迫るものがある。怒られているはずなのに何故か全然怖くなかった。多分、私の恋愛に関することだからだ。

「嫉妬しないでください!」
「どこをどう捉えたら嫉妬になるんだ!」

 降谷さんは憤慨した様子で書類に目を戻した。とりあえず、私がターゲットに本気で惚れてはいけないことが確定してしまった。惚れたら私は降谷さんに怒られてしまうだろう。そう思うと不思議とやる気が出るのだった。