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「この間の告白なんだけど」

 俺は結構な勇気を出して切り出した。それでも苗字の出した勇気に比べれば小さなものだっただろう。好きだということが以前から丸わかりだった苗字のことだから、息をするように告白していたのかもしれない。もしそうだとしたら、少し心外だ。

「ああ、それやっぱりいいや。いくら何でもおこがましすぎたっていうか、私はまた今度で」

 俺が何をしたいか言わない内に、苗字は勝手に話を終わらせた。俺への告白をなかったことにしたのだ。俺は結構悩んで答えを出したのに? 段々腹が立ってきた。

「勝手に取り下げるな。俺を振り回して楽しいか」
「え……? 佐久早って私が好きだって言ったら振り回されるの……?」

 揚げ足をとるな、と言いたくなる。大体何で俺が振り回されたら衝撃だという顔をしているのだろう。俺だって、所構わずついてくる奴がいたら少しは可愛く思う。多分、誰でも構わないということはない。

「それは告白したら答える」

 一応返事を控えると、苗字は頬に手を当てて叫んだ。

「こんなのもう好きだって言ってるようなもんじゃん!」
「そう思うなら告白しろ!」

 舞い上がるのはいいが、たった今告白をなかったことにしたのを忘れているのではないだろうか。俺の目つきが鋭くなる。

「ちょっと今キャパオーバーだから! とりあえずみっちゃんに報告してくる!」
「おい!」

 これでは付き合えたものではない。俺は苗字の呑気さに辟易としつつも、不思議と許してしまっていた。多分、惚れた弱みというやつだ。