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「僕のことどう思ってる?」

 突然そう言った五条に、私は一度動きを止めた。何を考えているのだ。いや、五条のことだから何も考えていないかもしれない。とりあえず面倒くさいことには変わりない。

「普通」

 私は短く答えて廊下を抜けようとした。しかしそれを五条が拒む。

「凄く好かれるか嫌われるかのどっちかだから、普通が一番嬉しいな」

 元々高専には少し用があって来ただけなのだ。五条と長話をするつもりはない。私は一番短く済みそうな答えを探した。

「じゃあ嫌い」
「あ、好かれるより楽」

 モテる男のさだめだろうか。五条を突き放すはずが、逆に気に入られてしまった。ああ言えばこう言う、とは今のような状態を指すのだろう。私はやけになってその場に足を張る。

「じゃあ好き!」
「好き頂きました〜」

 私の性格をわかっていて最初から狙っていたのではないか、と私は五条を睨んだ。しかし五条はまるで熱い視線を向けられたかのようにうっとりとしている。

「本当はね、僕名前にどう思われてようがどうでもいいんだ。名前が僕に興味なくても、関わりたくないくらい大嫌いでも、僕は名前を好きでいることをやめるなんてできないんだよ」

 五条は自分に酔っているのかもしれない。そう思わせるくらいの、恍惚とした表情だった。私は凄い男に好かれてしまったのかもしれない。いや、元々実力的な意味で凄くはあるのだが。

「今の聞いてどう思った?」

 漸く元通りの軽薄さを取り戻した五条に、私は吐き捨てる。

「関わりたくない奴だと思った」

 それを聞いて五条は笑っている。何を言っても毒になりやしないのだ。私は答えに窮している。五条は私の困るさまが面白いのかも知れなかった。趣味の悪い奴だ。