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「好きだ」

 多分、今俺は必死な顔をしている。みっともない。そう思うのに、こいつの前だと取り繕うことができない。好きとは理不尽なものだ、と思った。対する苗字は興奮したように手を頬に当てた。

「佐久早くんに告白されただけでキャパオーバーだから、返事は一週間くらい待ってくれない? ちょっと今動転してて」

 苗字の頬は紅潮しており、興奮しているのがわかる。俺の願望なしでも脈アリだと思う。キャパオーバーとまで言っているのだ。苗字の告白の答えは明白だ。

「何でそんなに待つんだよ。お前明らかに俺が好きだろ」

 こういった気持ちのことは無粋に言葉にして出すべきではないとわかっている。しかしそれをしないと、苗字は逃げようとするのだ。先程から苗字の足はもじもじと動いている。俺も好きな人の前ではこう見えているのだろうか。流石に今の苗字ほどではないはずだ。

「いや、本当に無理で……」
「俺のことを言ってるのか?」

 俺と付き合うのが「無理」ならば俺が「無理」だと言われているのと同じではないか。俺のことを好きなくせに、おかしな奴だ。俺は段々苗字に媚びることを忘れた。苗字はちょっとやそっと乱雑な態度をとっても俺を見切ったりしないだろう、という謎の自信があった。

「この分だといつキスできるのかもわかりやしない」

 もはや俺は苗字と付き合う前提でいる。俺の独り言に、苗字は大きく反応した。

「それはちょっと! 三ヶ月とか経ってからで!」
「中学生か!」

 思わず我を忘れて突っ込む。高校生の三ヶ月は普通、セックスとかするんだぞ。流石にセクハラじみていると思って、それは我慢した。