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「お前は本当に俺が好きなのか?」

 佐久早くんが言った。受験を目前に控えた一月のことだった。私はありがたくも推薦で進学が決まっていたので、数合わせのようにセンター試験を受けていただけだった。佐久早くんは私が切羽詰まっていないことを知っていたかのように私の前へ現れた。

「え? 何で?」

 佐久早くんの声色とは違う、私の軽い口調。佐久早くんは相変わらずつっけんどんな態度だった。

「何てフラれたかくらい覚えてないのか」

 私はそこで佐久早くんがしたいのは恋愛の話だということに思い至った。佐久早くんに告白をしたことを忘れるほど馬鹿ではない。けれど、佐久早くんとはあれで終わりだと思っていた。

「大会終わるまでは恋愛しないって決めてるから」

 私はフラれたのだ。特に未練もなく、ここまで順調にやれている。けれど今の佐久早くんを見るに、強調したかったのは「大会が終わるまで」という部分だったのだろう。

「断るための体のいい言い訳かと……」

 私の言葉に、「俺はそういうのしない」と佐久早くんが短く答えた。どこかの廊下の窓が開いているようで、時折教室に冷たい風が吹き込む。佐久早くんは暖かそうな格好をしていた。

「大会が終わった。あとはわかるな」

 一回では理解しきれずに、何度か目を瞬く。そして、私にとって都合のよすぎる答えに辿り着いた。

「私と付き合ってくれるの!?」
「それを今から聞けって言ってんだよ」

 佐久早くんは答えてくれる気も、「付き合おう」と言う気もないらしい。あくまで私から惚れた恋愛なのだ。私が佐久早くんを見据えると、佐久早くんの瞳がゆらりと揺れた。