▼ ▲ ▼

「俺付き合った時さ、名前のこと全然好きじゃなかったんだよね」

 よく晴れた冬の日だった。白い光が元也を照らし、元也のきれいな髪に時折反射した。私はまるでスローモーションの世界に入ったかのようにゆっくりとした動作で瞬きをした。私から告白したのだ。何も不思議なことではない。しかし、元也の態度からは信じられなかった。

「嘘ついて好きだよーって言ってたら本当に好きになっちゃった」

 元也は笑う。少しのきまりの悪さを誤魔化すように。私は追求したい気持ちを堪え、意地悪な目を向けた。

「元也って器用に見えて結構単純なの?」
「そこは自分の魅力だって喜べよ」

 目の前を流れる川の動きがやけに速く感じる。私と元也だけ、あるいは私だけが世界から取り残されてしまったようだった。元也が私と流れで付き合っていたことなど知っていたはずなのに、これほどショックを受けているのが自分でも驚きだった。

「なんだろう、今は、いなくなったら結構寂しいかも」

 元也は一つ一つ噛み締めるように言う。愛の言葉がそれなんて、元也は結構不器用だ。私への気持ちがあまりないと言ったらそこまでなのだけど、私のことをちゃんと好いているからこそ過去の話ができるのだと思える。誰とでも付き合える元也の最大の愛情表現が、「寂しい」。なんとも元也らしい一言だ。

「本当に好きなの?」

 私は好きだと言ってほしくて、からかうように言った。元也は私の意図を理解したように、「好きだよ」と困ったように笑った。多分言葉で触れ合うのはこれが限界だ。私は元也の手を握った。元也も握り返してくれた。