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 立ち寄った喫茶店にて、私はクリームブリュレを頼んだ。聖臣はコーヒーを注文した。洒落たエプロンをつけた店員が去った後、聖臣は眉を寄せる。

「おい、ダイエット中じゃなかったか」

 聖臣というのは、意外にも理解のある彼氏である。私がダイエット中だと言えば、「ふうん、頑張って」で終わらせるのではなく、「今日は間食してないな?」「昨日は何を運動した」と頻繁に気にかけてくれる。しかし、今言うのは無粋ではないだろうか。

「そうだけど! 特別だから食べるんでしょ!」

 私は聖臣を睨んだ。聖臣の後方にある鏡に、とっておきのブラウスを着た私の姿が映っている。聖臣は私の気合いなど知らぬ様子で、「そういう甘さは失敗の元だぞ」と告げた。どこまでも目標に忠実な人間だ。私だって普段からクリームブリュレなど食べているわけではない。何日も我慢して、今日という日のために用意してきたのだ。全ては、聖臣とのデートを楽しむたてに。

「聖臣が好きなんだからいいでしょ! 折角のデートなんだから!」
「そ、そうか……」

 私の剣幕に聖臣は押されたようだった。聖臣は落ち着かない様子で視線を逸らす。私にとって今日のデートがどれほど大事か理解しただろうか。もう私をちくちくと責めてきたりはしない。

「聖臣こそ甘いよね」

 私がおちょくるように言うと、聖臣は葛藤するような表情を見せた。でも聖臣が私を罵倒することなど滅多にない。いつも正論をつきつけるばかりで、憎まれ口など叩かないのだ。

「……そうかもな」

 聖臣の敗北宣言に、私は得意げに鼻を鳴らした。