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 忘れ物があったよ、と肩を叩かれた。内容はただのシャーペンであったが、知らせてもらったのはありがたいことだ。私は礼を言って受け取った。彼はまだ笑顔のままそこにいる。不思議に思って見つめていると、彼は何かを見つけたかのように去って行った。

「今の奴お前に下心あったな」

 同時に佐久早が現れる。佐久早は初めから見ていたのだろう、鋭い目つきをしていた。下心、と言われても落とし物を拾ってもらっただけだ。

「何で佐久早がそんなことわかるの?」

 私が尋ねると、佐久早は呆れたような表情を浮かべた。

「優勝してから俺が何回ミーハーに告白されたと思ってんだ」

 佐久早は部活で全国優勝してから爆発的にモテた。その時に審美眼が磨かれたということなのだろう。しかし、佐久早と付き合っている身としては過去のこととはいえミーハーに告白された事実は見過ごせない。

「今嫉妬すべき場面?」

 見上げれば、普段通りの私に対し佐久早は余裕のなさそうな表情をしていた。佐久早のこういった顔は結構珍しい。

「俺がしてんだからお前もしろ」

 佐久早が嫉妬している、その事実が面白くなって私は頬を緩ませた。

「心配しなくてもさっきの人とは何も起こらないよ」

 佐久早は「どうだか」と言って歩き始める。佐久早も結構子供らしいところがあるものだ、と私はまた一つ佐久早を知った気になった。