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 学校を休んだ千冬にノートを見せてあげるのは私の役目だった。千冬はヤンキー丸出しだったため、誰も近付こうとしない。その中で私が千冬と親しくしているのは、一種の好奇心のようなものだ。不良とはどんな人間だろうかと。実際は、根のいい奴だった。

「オマエ本当いい奴だよな。場地さんの彼女にするならオマエみたいな奴がいいワ」

 ノートを受け取って千冬は笑った。早く写さないと新たに授業が始まってしまうのだが、なかなか実行する素振りはない。成績をどうでもいいと思っているのだろう。今名前が挙がった「場地さん」と違い、千冬は追い込めばそこそこの成績を残すことができる。

「何で場地さんなの? そういう時普通自分の彼女を考えない?」

 私がそう言ったのは、単純な疑問からだった。千冬が場地さんを慕っていることは知っているが、思春期なら普通自分のことを考えないだろうか。顔を上げると、千冬は動揺をあからさまにしていた。

「おま……! オレが好きなのか!?」
「別に普通だよ」

 私の中の辞書の「不良」の項目に「意外と純情」、と書き込む。千冬だけかもしれないけれど、知り合いの不良が千冬だけなので確かめるすべがない。

「付き合う気がないならオレにそういう話すんなよな」

 私の答えを聞いて千冬はつっけんどんに返した。もしかして期待した? とからかってはやりすぎだろう。特に、千冬のような純粋な人間には。

「千冬はどういう子がタイプなの?」

 私が尋ねると、千冬は先程のような照れた表情に戻って言った。

「あー……可愛くて清楚な子だよ! これ以上オレに恋バナしたら好きになるからな」

 意味のわからない脅しをしつつもきちんと答えてしまう、その素直さに思わず笑みがこぼれた。千冬をいじめるのはここまでにしようと席を立つ。次の授業が今ノートを受け取ったばかりの国語であることに気付いた千冬は、「ああっ!?」と声を上げていた。