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 今日はクラスメイトと文化祭の買い出しに出かける日だった。佐久早くんがそれを了承したのは、佐久早くんが普段部活で文化祭の準備を手伝えていないからだろう。せめてオフの午後くらいは、と思ったのかもしれない。日曜日の渋谷は混雑していた。待ち合わせ場所でぼうっと過ごす中、私は大きな影を認める。佐久早くんだ。上げようとした手を中途半端にさせたままなのは、彼と私の服が被っているからだった。

「着替えてくる」

 先に行動に移したのは佐久早くんだった。コートのポケットに手を入れ、くるりと踵を返す。私は佐久早くんを慌てて呼び止めた。

「そんなに私と服被るの嫌だった?」

 今日の私達はお揃いである。けれどセット売りの商品を買った、という風には見えない。佐久早くんのコートは三つボタンなのに対して私のものは二つボタンだし、スラックスは灰と紺で微妙に色が違った。遠目から見れば全体的に似ている、という程度だ。

「ペアルックだと思われるだろ」

 佐久早くんは振り返って嫌そうな顔を見せた。マスクをしながらも鮮明に感情を表現できるのはある意味で才能である。

「私達付き合ってるように見えないよ」
「見えるだろ!」

 佐久早くんが何をむきになっているのかはわからない。私と佐久早くんなどせいぜいクラスでたまに話す仲だ。誰が見ても息ぴったりのおしどり夫婦などではない。けれど佐久早くんが気にすると言うので、私は近くの服屋で何か買い替えることを提案したが、「お前に金を使わせるのはなんか違う」ということで却下されてしまった。わかってはいたが、結構面倒な人だ。