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 冬の中庭は寒いが、上から差す日光で暖かった。こうしていると平和な気分だ。最近ではナイトレイブンカレッジについても詳しくなっており、こうしてのんびりとお喋りできる場所も発掘している。フロイド先輩はベンチに座る私の前に屈むと、困ったような笑顔で顔を上げた。

「ごめんねぇ、好きになっちゃった」
「何で謝るんですか……?」

 これは紛れもなく告白だった。しかし理想の告白ではなかった。誰でも、「ごめんね」という言葉混じりで告白されて嬉しい人はいないだろう。私もフロイド先輩が好きだ、とは言い出せない空気だった。

「だって、小エビちゃんは元の世界に戻るでしょ?」

 頬を乾いた風が撫でる。フロイド先輩がかくりと首を傾げた。私はそれを可愛いと思った。まるで遠い世界の出来事のように、今の現実を見ていた。この世界は文字通り私にとって遠い世界の出来事なのだと、私は忘れていた。

「だからそれまで、俺と楽しく過ごさねぇ?」
 フロイド先輩は私よりも、私が異世界人であることを理解している。それに比べて私はお花畑だ。この世界を楽しんでいたのだから。

「そうですね……」

 私達に甘い恋愛などあるはずもなかった。仮にこの世界にとどまれるとしても、いつ元の世界へ戻るのかという恐怖と常に戦わなくてはならないのだ。果たしてそんな私を、愛してくれる人がいるだろうか。

 急に肌寒くなった気がした。私はベンチを降りてフロイド先輩の隣に並ぶ。同じ景色を見ているとは思えなかった。