▼ ▲ ▼

 十一月も下旬になって、佐久早はポッキーを見せた。仮にも私達は恋人である。二人並んでポッキーを食べるだけなんてないだろう。私がポッキーを口にすると、佐久早はその端を口に含んだ。私がプレッツェルの方で、佐久早がチョコの方だ。ときめきや高揚も味わいつつ、私は少しずつ口を進める。佐久早はポッキーを味わっているのか、食べ方はゆっくりだった。いよいよポッキーはあと数センチしかない。そのところで、佐久早は至近距離で呟いた。

「今チョコが口について汚いからキスするな」

 その衝撃で思わず私はポッキーを離す。

「何でポッキーゲームしたの!?」
「したかったんだろ」

 残り数センチのポッキーは佐久早のものとなり、佐久早はいとも容易く食べてしまった。これではポッキーゲームも何もない。私は佐久早が咀嚼する様子を呆然と眺めていた。確かに、佐久早の体温で溶けたチョコレートが佐久早の唇についている。潔癖症の佐久早なら気になるかもしれない。だがこの雰囲気を台無しにする必要があっただろうか。

 佐久早はポッキーを飲み込むと、ウェットティッシュを取り出して口の周りを拭いた。その様子は高級フレンチを食べてナプキンで口を拭っているかのようだった。ただのポッキーなのに、佐久早がすると品がある。見入っていた私を、佐久早が現実に呼び戻す。

「じゃあする」

 佐久早は私の肩を掴んだ。キスなど何度もしたことがあるというのに、急に恥ずかしくなる。これも全部佐久早のせいだ。佐久早が変に仕切り直しなんかするから。文句を垂れる心とは別に、私は素直に目を閉じた。