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「おいし〜」
閉店近くのおにぎり宮にて、私はおにぎりを頬張る。おにぎりのお米というのは結構デリケートなようで、治は炊き立てのお米しかお客さんに出したくないようだ。冷蔵庫に入れておいたお米をチンして食べる、などもってのほかなのである。だから私がこうして安価におにぎりを食べられているのだ。
「友達代は三回までやからな」
私がおにぎり宮へ居座る未来を予見したのだろう。治は釘を刺すように言った。確かに友達だからとたかるのは申し訳ないと思いつつ、治のおにぎりはもっと食べたいと思ってしまう。普通に購入すればいい話なのだが。
「付き合ったら一生おにぎり食べ放題なん?」
ふと思いついて言うと、「それは結婚したらや」と治に素早く返された。治のおにぎりが食べ放題とはかなり魅力的である。
「結構迷うわ」
私は唇についたお米を口に入れながら言った。私としては何気ない会話の一部でしかないのだが、治は面食らったらしい。少し驚いたような顔をして私のことを見ている。
「そんなに俺のおにぎり好きやったんか」
私は治が女性とのあれこれから離れていることを察した。高校時代の治なら、こんなことを言われたらすぐ恋愛に結びつけるはずだ。
「いや結構治のことも好きやねん」
私は告白にロマンチックなシチュエーションなど求めていなかった。そもそも、これが告白なのかもわからない。それでも治は動揺したようで、帽子を被り直したりしていた。やはり治は恋愛に疎くなっている、と私は確信した。
「じゃあ、付き合ったら毎度半額や」
治のそれは、これから付き合うことになる女性全てへのプランなのか私の告白の返事なのかわからない。けれど私は都合のいい頭をしているので、私の告白への了承だと思うことにした。
「乗った!」
おにぎりが半額。それと治と付き合える。私の方が治を揺るがしているのが、あの頃からしたら考えられないことだった。
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