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「研磨くん、ゴムあるよ」

 始まりはその一言だった。私としては、研磨くんの長髪が体育教師に目をつけられるかと思っての親切心だったのだ。しかしそれに目をつけたのはクラスの男子だった。所謂陽キャラと言われる、研磨くんの苦手な人達だ。

「ゴムだって」

 私が「ヘア」ゴムと言わなかったのはゴムの選択肢にそれしかなかったからにすぎない。しかし彼らはそうではないようで、からかうような笑みを浮かべていた。研磨くんは俯いていた。

「おれが恥をかかされたのは変わらないから。それに仲良くしたらフラグ回収だと思われそうでしたくない」

 それから研磨くんは私に対して冷たい。怒っているのだろう。できるだけ目立ちたくない研磨くんを陽キャラの前に引き摺り出したのだから、当然かもしれない。

「いっそ付き合ってたことにしたら自然なんじゃない?」

 私はなんとか打開策を出すが、研磨くんはふいとそっぽを向いてしまった。

「クラスメイトの前でゴムとか言う痴女と付き合いたくないから」

 研磨くんは私が何度でも食い下がることを予期していたのだろう。「ふーん」と口を尖らせると、驚いたようにこちらを見た。

「は、待って、本当に好きなの」
「フラれたからもういいもん」
「それは名前がゴムとか言ったからでしょ」

 私達が付き合うのか付き合わないかはわからない。けれどまた一つ喧嘩を始めた私達は、永遠に仲良くなどできなさそうだ。