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 偶然訪れたおにぎり屋にて、私は北くんと再会した。北くんが農家になっているのも驚きだが、私は今食べているお米が北くんの作ったものだということに驚いた。ふっくらとしていてハリがあり、それでいて噛むと少し甘い。一人でブランド米を育てるなど、相応の努力がなければできないだろう。

「おいしいよ。北くん家のお米毎日でも食べたいくらい」

 私はおにぎりを頬張りながら言う。少し経ったところで、それがプロポーズのようだと気付いた。プロポーズの定番は味噌汁だけど、米も毎日食べるので同じだ。

「俺も苗字の味噌汁毎日食いたいで」
「北くん、私味噌汁作ってないよ」

 北くんはフォローしてくれているのだろうか。それともからかっているのだろうか。北くんは少しお茶目な顔をしている。

「サービスしてくれたからお返ししただけやん」
「そんなつもりないんだってば!」

 私はおにぎりを皿に置き、北くんの方を覗き込んだ。北くんは楽しそうに笑っている。

「俺は嬉しかったで」
「米農家として?」
「男として」

 北くんはどうしても話を男女のあれそれに持っていきたいようだ。だが本気なら、こうして軽く話したりしないだろう。つまるところ私は遊ばれているのだ。

「だーもう!」

 私が背中を反らすと北くんはにこにこと笑った。私は誤魔化すようにおにぎりにかぶりつく。北くんのお米はやはり美味しくて、なんだか悔しくなった。