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 好き、付き合いたいと言った時の北くんの答えはシンプルだった。

「部活がある間は恋愛できん」

 うちの男子バレー部は強豪だが、恐らく部の中で明確に恋愛禁止の決まりがあるわけではないのだろう。北くんが主将として、部活に本気を捧げようとしているだけだ。そういうところがますます好きだと思う。でも北くんは私のものにならない。私の落胆が伝わっていたのだろう、北くんは言葉を足した。

「ええやん。兄妹なのに好きになってもうたとかとちゃうんやし」

 北くんはおかしな人だ。私のことをフっているのに、私の気持ちを「ええやん」と称している。好かれて困るのは北くんではないだろうか。私は親に叱られている子供のような目で北くんを見上げた。

「私を励ましていいの?」
「そら苗字さんが俺の部活終わるまで好きでいてくれたらその後付き合えるからな」

 多分私の感情は全て顔に出てしまっていたことだろう。ここで単純な女だと笑うような人でなくてよかった。北くんは表情を柔らかくした。

「俺の答えはオーケーや。好きでいるかどうかは、苗字さんに任せる」

 つまり、私達の間にある壁は部活のみで、それがなければ私達は両思い――もしくは両思いに近い何か――なのだ。私に任せると言っているのも、半年近く待たせることになることを考慮してのことだろう。だが、北くんの気持ちがわかっていて待たない選択肢などない。私は餌をつるされた馬よろしく目を輝かせた。

「待つ! 好きでいる!」

 北くんは何も言わなかった。北くんのことだから、私の気持ちが続かなかった時のことも考えているのだろう。正直、私だって半年間北くんを絶対好きでいられる自信はない。でも今この瞬間のときめきだけは、忘れないでいようと思った。