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「佐久早、まだいたんだ」

 部室の扉を開けると、がらんとした室内に佐久早が佇んでいた。その手には鮮やかな花束を持っている。今日、インターハイ優勝をした井闥山高校男子バレー部は祝勝会をした。エースということで最後まで引っ張られていた佐久早は、必然と遅くまで残っていたのだろう。佐久早が今手にしている花束も、後輩一同からエースへ送られたものだ。決勝での佐久早の活躍は、エースという言葉に相応しいものだった。

 強豪の男子バレー部にも僅かながらお盆休みがあり、部室は数日の間空けることになってしまう。私は最後の点検を始めた。この真夏に飲食物でも置き去りにされたら、休み明け最悪の事態になってしまう。

 棚をチェックしていく私の横で、佐久早はじっと花束を見つめていた。花束などなかなか貰わないだろうから、興味深いのかもしれない。

「佐久早もやっぱり嬉しいでしょ? 花束まで貰って」
「いや、花束なら他の物がよかった」

 貰った立場だというのに、佐久早はそんなことを言う。確かに男の子で花束は嬉しくないかもしれないが、そこは喜ぶべきところだろう。

「そんなこと言わないの。花束なんてプレゼントの中でも最上級なんだから。花束をあげるっていうのは、物凄い好意の表れなの」

 受け取るのも男子高校生なら、送るのも男子高校生である。一年生とて、花屋に入るのは恥ずかしかったのではないだろうか。それを堪え、佐久早のために花を選んで買ってきたのだ。何と素晴らしい後輩だろうかと、私は感動せずにはいられない。

「人へのプレゼントって、自分が用意したものじゃなくてもいいと思うか」
「え? まあ気持ちがこもってれば……」

 佐久早は何を言い出すのだろう。花束は正真正銘一年生が用意したものだし、佐久早も何か物を贈る予定があるのだろうか。不思議に思っていると、佐久早が突然花束をこちらに差し出した。

「やる」
「へ?」

 私は思わず動きを止める。この花束は、今日後輩達からエースへと貰ったばかりのもののはずだ。いくら花束がいらないからと言って、たまたま部室にいた私に押し付けることはないだろう。

「折角貰ったんだから持ち帰りなよ。そんなことしたら花束が可哀想だよ」
「お前が言ったんだろ、プレゼントは自分で用意したものじゃなくてもいいって」

 その言葉に自分の発言を思い出す。確かに私はそう言った。それとあと、花束についていくつか告げた。

「物凄い好意の表れ、だったか」

 私がまさに思い出していた言葉を言って、佐久早は花束を私の胸に押し付けた。目まぐるしく回る思考の中、花が潰れてしまう、なんてどうでもいいことを考えていた。