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「そろそろ結婚しますか」

 任務が終わりに車に揺られていた時、唐突に七海さんは言った。そのあまりの突飛さに私は一瞬驚くことを忘れた。一呼吸置いてから、今運転している補助監督の分も驚きを示すように大声を上げた。

「いきなり何ですか!?」

 窓ガラスに反射した七海さんの顔は迷惑そうにしかめられた。七海さんの顔と被って、東京の夜景が広がっている。七海さんはこの夜のどこかに、待たせている人がいるものと思っていた。

「私は結婚適齢期の貴女をこの世界に巻き込んだことに少なからず罪悪感を持っています。恋愛している暇などないでしょうからね。だから貴女に相手がいないのなら、私が責任を持って娶ると言っているんです」

 私が呪術師に復活したのは七海さんを追ってのことだった。七海さんが会社を辞めたと聞いて、私も当時勤めていた小さな会社に辞表を出したのだ。確かに七海さんがきっかけだったが、元々私は呪術高専に通っていた身である。とうに呪術の世界には巻き込まれているのだ。

 などと長々と説明するのはなんだか必死であるような気がして、私は一言告げた。

「間に合ってます」

 七海さんは窓の方へ向けていた視線をこちらへ寄越す。

「結婚を考えた恋人がいると?」
「いないですけど……」

 間に合っていると答えた手前恥ずかしい。七海さんはわかっていたとでも言うように眼鏡を上げた。七海さんの冷静さの欠片でも欲しいくらいだ。

「では今週の金曜日、どこか予約しておきます。くれぐれも残業はしないように」

 返事をしながら、ああこれはデートなのだろうと何故か気が重くなった。それは七海さんに対してか、七海さんの重すぎる責任感に対してかわからなかった。