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 幸郎は、パックの紅茶を飲みながらふと尋ねた。

「試合来ないの?」

 昼休みの教室は煩く、雑音に満ちている。私達が付き合っていることは誰もが知っているから、今更じろじろと見られることもない。私は箸を置き、幸郎につられて買ったパック入りのジュースを手に取った。

「行かない。私同担拒否だから。他の女が幸郎を応援してるところ見たくない」

 可愛げのない彼女だと思う。本来ならばそれくらい我慢するべきなのに、どうしてだか私はできない。他の女子生徒が幸郎を応援している姿を、私の視界に入れたくないのだ。幸郎は困ったように笑った。

「俺にそんなにファンはいないよ」

 多分光来くんの方がいるんじゃないかな、と幸郎は言う。確かに、東京の合宿にも呼ばれたという星海くんの方が有名だ。だが女子の中では、高身長で物腰の柔らかい幸郎の方が人気だと私は知っている。私は返事をせず弁当の続きを食べた。

 幸郎から声がかかったのは、それから一週間経ってからのことだった。

「名前ちゃん、今度こそ試合に来て」

 私は思わず顔をしかめた。私が試合に行きたくない理由は説明したはずだ。本来ならそれで引き下がってくれるだろうに、今回の幸郎はしつこい。私の不満にも気付かないように、幸郎は軽薄な笑みを浮かべている。

「いつも俺のこと応援してくれる女の子にもう来ないでって言っておいたから。流石にうちわとかは作ってなかったからよかったよ。俺、そんなスター選手じゃないしね」

 私は素直に、嬉しい、と思っていた。本来優しい幸郎に冷たいことを言わせてしまった罪悪感のようなものはなく、むしろ私のために非道な手段を選択してくれた満足感のようなものがあった。表情が晴れていく私を幸郎は誇らしげに見守っている。幸郎は完璧な王子様などではない。好きな人のためなら、冷徹にもなれる恐ろしさを秘めている。私は有頂天になって、「行く!」とばかり繰り返した、