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「どうして?」

 それは日付を超えた夜のことだった。数少ない街灯に照らされて、一人の男が立っていた。特徴的な白髪と高身長でわかる。彼は私の同僚、五条悟だ。五条は腕を組み、視線をじっと私に寄越していた。

「それはどうして名前の家を知ってるかってこと? それとも彼氏でもないのにどうして夜会いに来るのかってこと?」

 どちらでもあるし、どちらでもない。強いて言えば、私に気があるのかと聞きたい。五条は誰にでも優しいようでいて誰にも自分の領域への進入を許さない。その五条から、特別扱いされてるような気になったのだ。だからと言って、五条に擦り寄りたいほど嬉しいというわけではないけれど。

「彼氏じゃなきゃ名前を怒っちゃダメなの?」
「怒ってるの?」
「そりゃあこんな夜中に一人で歩いてればね」

 五条は私が呪術師であることを知っているはずだ。大抵のことには一人で対処できるし、今更変な男に怖気づいたりしない。それでも私を女性扱いする五条は、やはり変に思えた。

「次からは僕を呼んで」

 五条は優しく私の手を取り、指を絡めた後離した。促すように私のアパートの方を見ている。私が家に入るまで見届けようということなのだろう。私は視線を感じながら、素直に家への道を辿った。体の内が酷くむず痒い。五条は多分私を好きなのだろう。けれど私にとって五条は同僚のままで、五条に女の子扱いされる自分が酷くちぐはぐに思える。私に自分の気持ちを知られても構わないという五条の余裕がまた、私を焦らせた。五条のことで悩むなど馬鹿みたいだ。扉が閉まった瞬間、外の通りから五条の気配が消えた。