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 朝起きると昼神君がいた。それだけではない。私は昨日の記憶もしっかりあった。私達は一線を超えた。きちんと服を着ているのは、仮にも人のベッドで裸のまま横たわるのに気が引けたからだ。そう、私達は他人とも言うべき関係性だった。

 隣で身じろぎする音がする。昼神君が目を覚ましたのだ。昼神君はパンツとズボンだけ身につけていたけれど、一人で酔って寝るならそういったこともあるだろう。昼神君は答えを求めるように、私の瞳を覗き込んだ。

「何もなかった、昨日」

 私は乾いた声で嘘をついた。昼神君の特別な何かになってしまうのが怖かったのだ。昼神君はどこか他の人とは違うと、昨日の行為で感じていた。

「本当? じゃあ、今からしようか」

 昼神君は寝起きとは思えない素早さで私を押し倒した。昨日と同じ光景が広がる。でも昨日は欲情しきった顔をしていたのに対し、今日は穏やかな笑みが広がっている。落ち着いた状態でも私とセックスをする気になるのだ、と思ったらさらに怖くなった。

「嘘! 本当は最後までした」

 私はすぐに白状した。昼神君は怒ることもせず、子供を問いただすように続ける。

「何で嘘なんかついたの?」
「昼神君と特別な何かになるのが怖くて……」

 昼神君は声を出して「あはは」と笑った。性欲をあらわにされるより余程怖かった。昼神君の真っ暗な目が開く。

「名前ちゃんはもうとっくに俺の特別だよ」

 私は何も言えなかった。何を言うのが最善か、わからなかった。昼神君は体を起こしつつ、私に向かって語りかける。

「ちなみに今の告白だから。順番は間違えたけど付き合うってことで問題ないよね」

 知らない間に話は進んでいた。私は掠れた声で「はい」と言った。「はいだなんて、他人行儀だなぁ」と笑う昼神君は、随分と楽しそうだった。