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「俺のこと好きなのやめろ」
佐久早くんにそう言われた時、ひゅ、と私の息が止まった。佐久早くんは私の気持ちを知っている。その上で、言われた言葉は前向きなものではない。
「後から好きだった時間返せって言われるのが一番面倒なんだよ。ゴタゴタする前にやめてくれ」
佐久早くんは強い瞳をしていた。私に好かれるのが余程嫌なのかと思ったが、佐久早くんが嫌っているのは「私」ではなかった。一方的に思いを寄せられる恋愛を、もしくは佐久早くんに例の言葉を言った過去の女の子達を、佐久早くんは憎んでいるのだ。憎んでいる、と言うより怯えていると言った方が正しいかもしれない。佐久早くんはこれほどに大きくて強いのに、目の前の彼は小さな男の子に見えた。
「私は見返りとか求めないよ! 佐久早くんのこと好きで後悔しない!」
少なくとも、振り向いてもらえなかったからと言って恨み言を言うことはないだろう。佐久早くんはじとりとした目を向けた。
「じゃあ卒業する時何も文句はねぇだろうな」
言質をとるかのような言葉だ。佐久早くんが私に好きでいることを許してくれるのが意外だった。
「勿論」
私が返すと、佐久早くんは「ならいい」と言って歩き出した。私の恋はより現実味を増した。
それから一年半が経った。気付いたら卒業だ。私を呼び出したのは佐久早くんだった。佐久早くんが私を好きになったというわけではないのだろう。空き教室で待っている佐久早くんは、少し気まずそうだった。
「悪かったな」
佐久早くんは謝罪から始めた。
「他の奴に目移りするなみたいなこと言ってたことに後から気付いた」
佐久早くんは佐久早くんで責任を感じていたのだろう。私も、例の一件があってから余計に佐久早くんを意識していた気がする。佐久早くんを卒業まで好きでいるのが当たり前、というような。
「別にいいよ」
私は偉大な何かを成し遂げた気でいた。三年間積み重ねたものは学業でも部活でも大したことはないが、佐久早くんを好きであるという一点において私は自分を誇れた。私はこれでもう、満足だった。しかし佐久早くんは違うようだった。
「そろそろ見返りを求めてもいいんじゃねぇの」
佐久早くんは、恐らく善意からそう言っている。佐久早くんが私と付き合うところで私を好きになったわけではないのだけど、貰える厚意は有り難く受け取っておくのが私だ。私が笑みを浮かべると、佐久早くんは焦ったように「なんか言え」と言った。
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