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 マッチングアプリの人と会う、と話したのは話のついでだった。初めての機会に私も不安や興奮があり、誰かに聞いてほしかったのだ。先輩達は口々に応援してくれた。私の心は完全に前向きに戻っていた。

「何回ご飯を食べて映画を観ようが、一年間一緒に働いた俺の方があなたをよく理解している気がします」

 話を終えて席に着くと、唐突に赤葦さんに言われた。何のことだろう、と思ってマッチングアプリのことを思い出す。赤葦さんにも話が聞こえていたのだ。赤葦さんは何を意図しているのかわからなかった。少しご飯を食べたくらいでは、真にわかり合えないと言いたいのだろうか。

「食事と映画ディスってます?」

 私が言い合いを恐れずに言うと、赤葦さんはパソコンから目を上げないまま答えた。

「いいえ。ただのアピールです」
「アピールの方が困るんですけどね……」

 私の出会いは、こんなにも身近な場所にあったのか。マッチングアプリをしたのが無駄に思えるやら社内恋愛やらで私は頭を抱えたい気持ちになった。まだ社内恋愛をすると決まったわけではないのだが、私の頭は既にそういった未来を描いている。

「迷惑でしたか?」

 赤葦さんが顔を上げた。正直、先程まで脳内にあった恋愛予定図は変更を余儀なくされている。でも、赤葦さんの言うように赤葦さんの方が親しみを感じる。

「いいえ。でもアプリの件は、少し保留にします」

 私が言うと、赤葦さんは「そうですか」と言って仕事に戻った。少しくらい喜んでくれればいいのに、と思いつつも、赤葦さんはそういった人だと私も理解していた。