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 月曜日の教室にて、私は佐久早に呼び止められた。

「髪切った?」

 私達は付き合って三日目だった。佐久早はどこか迷うような目つきをしている。私達はまだ、互いの距離感を測りかねていた。

「そう。願掛けで伸ばしてたけど、もう叶ったから」

 短くなった毛先に触れる。佐久早と付き合うという私の夢は果たした。もう伸ばす必要はないのだ。佐久早も、彼女のヘアチェンジにならいい顔をしてくれるだろう。と思いきや、彼は考え込むような顔をしていた。私のショートは似合わないだろうか、と不安になる。佐久早は唸るように語った。

「普通失恋したら切るだろ。周りからは失恋したって思われてんじゃねぇの」

 確かに、髪を切る定番は失恋だ。佐久早は周りからの目を気にしているらしかった。実際は付き合っているのにフラれたと思われては嫌なのだろう。何が嫌なのかはわからないが。佐久早は周りの目など気にしないと思っていたので、少し意外だった。

「佐久早って背中に書いとくか」
「ええっ」

 佐久早はそれほどに自己顕示欲の強い人だったのだろうか。いや、この場合独占欲と言うべきだろうか。私ばかり好きなものだと思っていたから、私にとっては嬉しい誤算だ。私の瞳は期待に揺れていたことだろう。見上げた先で、佐久早は笑った。

「嘘だよ」

 佐久早は、冗談を言うような人だったのだ。私は呆然として佐久早を見ていた。目を細めて笑う佐久早に、可愛い、と思った。