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 安室さんが、普通の人ではないということはなんとなく知っている。飲み会帰りに会うだけで店を当ててきたり、私の話していない情報を知っていたり、ということがそれを裏付けていた。安室さんは危ない世界に身を置く人なのだ。では何故安室さんのスマホが無防備に置かれているかというと、私を試しているに違いない。安室さんは私にスマホを見せようとしているのだ。

 私は興味本位でスマホをとり、パスコード画面で手を止めた。安室さんが考えたパスコードなどわかるはずがない。しかし、思い当たるとすれば――。安室さんのスマホのロックは、私の誕生日で開いてしまった。

「安室さん」

 まるで見張っていたかのように、安室さんが奥の部屋から出てくる。私の手にはロックを解除したスマホがある。だが責められているのは私ではなく、安室さんだった。

「ご心配なく。こちらは見られてもいい方のスマホなんです」

 安室さんはにこりと微笑んだ。私もこのスマホの中に安室さんに関する重大な内容が入っているなど思っていない。

「安室さんの心配はしてないです」
「それはどうも」
「何で私の誕生日なんですか?」

 安室さんはもったいぶった手つきでスマホを取った。ホーム画面には私と大尉の写真が、一部トリミングされて載っている。

「一般人が思いつくパスコードなんて、せいぜい自分か恋人の誕生日でしょう。だから容易く突破できるパスコードにしたんですよ」

 安室さんは完璧だとでも言うように語るが、そこには一つの落とし穴があった。私にとっては重大な事実だ。

「私は恋人ではないですけど」

 私が反抗するように言うと、安室さんは満面の笑みで返した。

「周りからは違うように見えていると思います」

 周りからそう見えているなら、本当の関係はどうでもいいと言うのか。なんとなく、本当の姿をあやふやにしている安室さんらしいなと思った。安室さんはスマホをポケットにしまい、わざとらしく言う。

「とにかく、利用させてもらいますよ」

 私も危ないことに巻き込まれてしまうのかもしれないが、安室さんに任せておけば大丈夫だ、という信頼があった。私は仕方なく受け入れた。