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 村上先輩は私の憧れだった。憧れ、と言うには少々下心があったかもしれない。眺めているだけで幸せだったのが話しかけるようになり、遂には個人ランク戦を挑むようになってしまった。私とやっても結果は明白だろうに、村上先輩は門前払いしなかった。ただ、申し訳なさそうな表情を顔に浮かべた。

「ランク戦は寝てからじゃないとできないんだ」

 一つ言うならば、私の頭は恋愛に染まりきっていた。ボーダーやサイドエフェクトのことより、村上先輩とどうなるかしか考えていなかったのである。つまり、「寝てからじゃないとできない」という言葉は、完全にそういう意味に聞こえた。

「準備してきます!」

 私はかしこまって敬礼し、ラウンジを去ろうとする。泊まることもあるため、隊室には少しの着替えがあるはずだ。村上先輩の反応も見ずに私は突っ走り、急いで着替えてまたラウンジへ戻る。村上先輩は不思議そうな顔をしていた。何で私が準備をするのだ、という表情だ。

「私は準備万端ですよ」

 そう言うと、村上先輩も理解したらしかった。何せ私の気持ちは村上先輩に知られているのだ。ついでに、私の猪突猛進な性格も村上先輩は理解している、と思う。

「そういう勘違いをしてたのか……」

 村上先輩は呆れるように頭に手をやった。「サイドエフェクトのことだよ」と言われても私の気持ちは怯まない。

「凄い気合入れてきたので見るだけでも見てもらえませんか?」

 私が期待のこもった眼差しで見上げると、村上先輩は目を逸らした。

「それはできない」

 その紳士さが好きだと思う。ちょうどラウンジに来た荒船先輩やカゲ先輩に対し、村上先輩は私を隠すように体を移動させた。そのあまりの冷静さに、私は少し物足りなくなった。