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うだるような暑さの中、佐久早くんはビブスの整理をしていた私に近付いた。
「先輩は夏で引退した方がいい気がします。成績よくないでしょう」
みんなのいる前で話すのではなく、体育館の隅で話すのは佐久早くんなりの配慮なのかもしれない。だが真に気遣いができる人とは、そういった冷たいことを言わない人だ。私は一度止めた手をまた動かした。
「酷いなぁ、これでも一生懸命やってるんだよ?」
多分、佐久早くんには嫌われていない、と思う。でも部に不要だと言われてしまうのはやはり悲しいことだ。私は佐久早くんの言葉に対抗するためではなく、部のために冬まで残った。
「だから言ったのに」
春高を前にして、佐久早くんは再び私を責めた。正確には、クリスマスを前にしてと言うべきかもしれない。あれから、交際の申し込みこそされていないが佐久早くんは私を好きだと言ってくれた。なんとなく、そんな気がしていた。夏で引退しろというのは恐らく、部内恋愛をしたくない佐久早くんのけじめだろう。
「クリスマス一緒に過ごせないのを怒ってるの? 佐久早君も部活あるでしょ」
佐久早くんはクリスマスを一緒に過ごしたかったのだ。意外に可愛いところもあるものだ。しかし私が引退したところで、佐久早くんには部活がある。佐久早くんは部活をサボるような人ではないだろう。
「俺は部活と先輩だけですけど先輩は部活と俺と勉強じゃないですか」
知らない間に、私の予定の中には佐久早くんが組み込まれていた。けど、告白されてふらなかった私の気持ちはとうに自覚しているところである。
「いつになったら俺に集中してくれるんですか」
そう拗ねたような顔をする佐久早くんを可愛い、と思ったが、言葉にしてはきっと嫌がられてしまうのだろう。私は佐久早くんの頭を撫でくりまわしてやりたくなった。
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