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 本部の会議終わりに偶然一緒になった。というのも私の家が玉狛支部の方角にあるからだ。私達は限られた時間、隣に歩くことを許されている。

 ふと、クリスマスツリーが目に入った。烏丸くんの向こうに見えるそれは、通りを歩くすべての者を温かな気持ちにしてくれた。クリスマスにもう一度烏丸くんとここへ来たい、と思った。

 私は立ち止まる。数秒遅れて、烏丸くんが振り返る。烏丸くんの視界にはクリスマスツリーが映っていないだろう。私が烏丸くんの中の色を恋愛色にするのだ。

「あの、気付いてるかもしれないんだけど私……」

 一思いに告白しようとした時だった。烏丸くんが私の足元を指差し、平坦に言う。

「そこゴキブリいますよ」
「えっ!?」

 私は慌てて後ずさった。だがそこにはコンクリートの歩道があるのみで、ゴギブリどころか蟻すらいない。

「嘘です」

 私が顔を上げると、烏丸くんはしれっと口にした。

「何で!?」
「先輩に告白してほしくなかったので」

 私の顔を鏡で見たら、わかりやすく落ち込んでいることだろう。それか、心配の表情を浮かべているに違いない。私の気持ちは、迷惑だったのかと。

 烏丸くんは体の向きを変えた。私を焦らしたまま、本人は物思いに耽っているようだった。あるいは何も考えていないのかもしれない。烏丸くんが、クリスマスツリーを指差した。

「付き合うの、クリスマスまで待てます?」

 言葉が出てこない。どういう意味かと問いたいし、「付き合うの」と言っているならオーケーなのだと確かめたい気持ちもある。私は烏丸くんみたいに駆け引きなどできないから、何も言わない方がいいのではないか、とも思った。

「どうせだったらクリスマスを記念日にしましょう」

 烏丸くんは歩き出した。話は終わった、と言いたげな表情だ。私の告白はオーケーされたのか、流されたのか。付き合うとしても、私はもう一度告白しないといけないのではないかということに気付いて、内心焦りを浮かべた。でも、それは不思議と心地いい感情だった。