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 恋愛が面倒くさい、女子が面倒くさい。それは俺がバレーで評価され始めた頃から思っていた感情だった。少し前まで俺のことを教室の背景とでも扱っていた女子が、全校集会で表彰された俺を見るなり態度を変える。そういった女子は、俺の何を好きなのだろう。仮に俺がバレーを辞めたら、俺を好きなことも辞めるのだろうか。とりあえず俺の理想とする恋愛ではないことは確かだ。そのくせ俺が断ると、ぴーぴー泣いて被害者ぶる。被害者はこっちだ、と言いたくなる。大抵彼女達は、俺にフラれた数日後には他の男子を熱っぽい視線で追いかけている。

 だから俺は、恋愛したくないんだ。俺はクラスメイトである苗字名前に熱弁した。女子にそういった話をすること自体が、俺を好きになるなという予防線を張っているように思える。しかしあいつならそういったことも超えて本心を話せるだろうという、よくわからない信頼があった。それは俺が休み時間にしつこく構われたり、試合の翌日に小さくガッツポーズをして迎えてくれることだったりで生まれたのかもしれない。

 あいつは、特に何の感慨も持たず聞いていた。佐久早は敏感なところがあるんだね、と言ってくれた。馬鹿にした風ではなく、俺を理解してくれているのだと思った。俺は理解者を持てたことを嬉しく思った。男と女でも、面倒な関係にならずに済むものだ。

 いつしか俺があいつに抱いていた信頼は、呆気なく壊れた。霜のおりた日だった。部活中、忘れ物をして教室に戻ると、あいつが俺の話をしていた。思わず立ち止まる。俺が好き、と言っていた。どう考えても、恋愛の文脈で。

 俺は足に根が生えたようにその場に立ち尽くしていた。ショックだった。俺とあいつの間にあるものは友情ではなかったのだ。理解し合えたと思ったのは、幻だったのだ。

 不思議とあいつに対する怒りは湧かなかった。迷惑だとも思わなかった。ただ、俺が恋愛は嫌いだと語っている間あいつを傷つけていたのだと思ったら、俺が憔悴した。それはあいつを好きだからとか、そういうことに結びつけて考える余裕はない。ただ俺は、一人の友人を失った。