▼ ▲ ▼


「好きや。付き合ってくれ」

唐突に北が言った。十二月の体育館裏で、時刻はもうすぐ一時になろうとしていた。真冬の空気は肌を刺すように冷たく、私は両の手を休むことなく擦り合わせていた。その手も、止まった。北が私に好きだと告げた、その意味は間違いなく恋慕の吐露だった。北が恋愛や告白をするということも、北が告白場所に定番中の定番の体育館裏を選んだことも、全てが驚きの対象だった。告白場所にだけ関して言えば、ここは北がいつも部活で通る馴染みのある場所なのかもしれない。

私の頭は段々と別の方向へ傾き、北から告白されたという事実から逃げようとしている。だが勿論、北は答えを待っている。私が北と付き合うと言うのか、付き合わないと言うのか。そこに北を好きであるかどうかはあまり関係ない気がした。「付き合ってほしい」の答えは付き合う・付き合わないであり、好き嫌いではないような気がするのだ。だから私は、「付き合わない」を選択した。これは狡い私の、些細な反抗だ。本当は北を好きだけれど、今は関係ない。それよりも、今ここで付き合ってもいいと答えてしまったら、まるで前から好きだったと言っているようではないか。実際その通りなのだが、長い間北と友人でいたプライドがそれを許さない。きっと北は一度断られたくらいでは諦めない。また二人の雰囲気が良くなったら、そこで話を持ちかければいい――。私は真っ直ぐに北を見つめ返し、口を開いた。

「ごめん、北とは付き合えない」

北は一度悲しそうな顔をしながらも、きっと「また友達でいよう」と言ってくれる。私は育ちのいい女の子のように両手を身体の前で合わせた。

「そか。話に付き合わせてすまんかったな」

じゃ。それだけ言うと、北は呆気なく背を向ける。段々と遠ざかる背中には、何の未練もないように思える。私は思わず北を呼び止めると、その背中に叫んだ。

「何で⁉」
「嫌や言うてる奴にしつこくつきまとってもしゃあないやん」

北はあっけらかんと言う。その言葉全てが私の想定外だ。

「別に嫌とは言うてないし!」
「そういうダサいことはせんわ俺」
「一回フラれたくらいで諦めるんかいな!」
「世の中そういう人間の方が多いで」
「ダッサ!そっちの方がダサいわ!ダッサ!」

いくら発破をかけても動じない北に、私はますますヒートアップする。冷静に言い返していた北だったが、ここで改めて私を見据えると、一息置いてから口を開いた。

「あんまそういうこと言わん方がええで、お前を好いてる人間の前で」

何も言えなくなった私に、北は一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄る。その足が私の目の前で止まると、北はそっと私の頬に触れた。

「……何で嫌がらんねん」
「だ、だって……」

北を好きだから、と言えたらどんなによかっただろう。しかし悲しいかな、私はそんな素直さを持ち合わせていない。

「……しゃあないから、さっきの告白はオッケーにしたるわ」
「お前の判断基準がよくわからんけど……まあええわ。これからよろしくな」

そう言った北に好きだと言えるのは、これから何日先のことなのだろう。