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 タイツを見ると、影山くんはしょんぼりとした顔をする。タイツを好きであるはずなのにそういった顔をするのには、とある経緯があった。私が買ったばかりのタイツを履いていたところに、盛った影山くんがタイツを破いて大層怒られた事件があるのだ。当時のタイツはお気に入りであったし、仕方ないと思う。しかし恋人としての触れ合いに少なからず支障をきたしてしまったことに、私は反省している。

「このタイツ伝線してるんだよね」

 私は足を見せるように伸ばした。ソファの上では、同じく影山くんが座っている。影山くんはタイツのあらを探すように目を凝らした。

「デンセンって何ですか?」
「壊れてるってこと」

 相変わらず、ファッション用語には疎い。タイツが壊れるということを理解していないのだろう。「はぁ」と言いながらも、彼は納得した様子ではない。

「何でそんなタイツ着てるんですか?」

 私は影山くんの察しの悪さに腹が立った。彼氏の前に、わざわざ伝線したタイツを着ていく理由など多くない。私が彼にしている施しに、影山くんは気付かないのだ。私は苛立って彼の方へ顔を突き出した。

「だから破っていいってこと! 影山くん国語の成績悪いでしょ」

 嫌味を言ってしまうのは私の悪い癖だ。でも、それは親しい人だけに限られている。

「全部悪いです」

 そう言って私に手を伸ばす影山くんはまさしく問題児で、非難したいはずなのに私の胸は疼いた。多分、ときめきとかそういうやつだ。