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 月のない夜、俺は犯行に及んだ。動機はまぎれもなく欲だった。しかしそれは快楽を得たいという類のものではなく、俺が誰かに認められたいという、極めて独善的なものだった。

 女は、どういうわけか俺達の旅に着いてきている。その理由はどうでもいい。大事なのは、今日ここで俺が女と交わることだ。

 俺は敷布の上で横たわる女に馬乗りになった。少し離れた所で白石と、杉元が眠っている。女が目を覚ました。俺を見て、焦ったように息を呑む。何か言うより先に、俺が口を開いた。

「大声で助けを呼んでもいい。だが、真っ先に助けに来るのは杉元だろうな」

 杉元の名前を出すと、女は何かを堪えるような表情で黙り込んだ。愉快な気分だった。女が選んだのは杉元なのだ。なのに俺に抱かれるということが、面白くてたまらなかった。まるで杉元に向けられている愛を俺が奪ったみたいだ。奪う。なんと魅惑的な響きだろうか。

 女は俺にされるがままに着物を脱がされていた。人は愛する人のためならここまでできるのだ。ますます俺の興味が増した。杉元に知られるくらいなら、いっそ俺に抱かれた方がいいと。

「……チッ」

 俺の中に負の感情が渦巻く。先程まで楽しくてたまらなかったはずなのに、怒りや、焦燥のような気持ちが喉元までのぼってくる。それらも全部、女へぶつけてしまおう。そして杉元が女と結ばれる頃には、女は俺に抱かれた後なのだ。俺の頭は考えることをやめなかった。ただ、それとは無関係に体が酷く興奮していた。