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 僅かな休憩時間に佐久早は校舎の方を見る。体育館からは昇降口がよく見え、生徒達の様子がわかる。学期末だからか、生徒の姿は多かった。その中でも佐久早は彼女の姿をすぐに見つける。これはもう、惚れた時からの習性のようなものだ。だからと言って笑みを浮かべて名前を呼ぶ快活さなど佐久早にはなく、その姿を見て口を尖らせた。

「この寒いのに俺に見せるために生足って馬鹿じゃねぇの」

 苗字はタイツも履かず、夏と変わりない長さの靴下を履いていた。見ているだけで寒くなる。それが佐久早に向けたアピールであることは明白である。

 隣で見ていた古森が、苗字に向かって大きく手を振った。

「苗字ー、佐久早が愛してるだって!」
「それは言ってない」

 このやりとりは聞こえていないだろう。一体今のをどう解釈したら「愛してる」になるのか。似たようなことは思っているが、部活の休憩時間に古森に向かってこぼすほど安いことではない。苗字は古森に気付き、生足を冷気に晒して体育館に近付いた。

「別に佐久早のためだけじゃないもん」

 拗ねたような言葉ではあるが、気を悪くした様子はない。むしろ、俺に構ってもらえて嬉しいと言うような。

「他に誰に見せるんだよ」
「女の子としてのおしゃれ!」
「俺以外にアピールしてどうする」

 俺は腕組みして苗字を睨む。苗字は反省していないような表情を浮かべて、小さく縮こまった。可愛い、と思ったが、古森の前で言うのは癪だからやめておく。

 休憩終了の合図が鳴った。俺は迷った挙句、小さく苗字に手を振った。苗字も振り返してくれた。