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 ああ、まただ。私は窓に近いテーブルに座る彼を見て辟易した。彼がこのレストランへやってくるのはいつものことだ。ほぼ毎週末、女性を連れてやってくる。それも毎回、違う女性を連れて。

 前にデートした女性から見つかるかもしれない、と心配しないのだろうか。デート場所を変えず、馴染みの店に連れてくるのは一種の雑さを感じる。私はオーダーが入ったので仕方なく、デザートをテーブルへ持って行った。

「ああ、ありがと」

 彼は私に微笑んでみせる。話を中断された女性は不快そうな顔を見せた。その親切さを女性へ向けてやればいいのに。私はそそくさと退散する。暫く経った後、彼は支払いを済ませて一度店を出た後また戻ってきた。

「ねえ」

 私へ声がかけられる。彼からはクレーマーのような気配がしなかったけれど、あまりいい印象はない。肩に力を入れる私に、彼はのへりと笑う。

「シフト終わるの何時? 僕待ってるよ」

 私は内心で大きなため息をついた。遂にプライベートの女性だけでは足らず、ウェイトレスまで巻き込むのか。本来はお客様なので失礼があってはいけないのだが、私と彼は長らくの顔見知りだった。そう、彼が毎週末女を連れてくるようになってから、ずっと。

「連れの女性はどうされたんですか?」

 私が聞くと、彼は「ああ」と外を指差した。

「酔ってたからタクシーに入れたよ。今頃家に着いてるんじゃない」

「入れた」という言葉からは、彼が女性をどう思っているのか伝わってくる。私はたまらずに言葉を足した。

「毎週女性を連れてくるくらいですから、女にお困りではないのでは」

 私としてはこれ以上ない嫌味を言ったつもりだった。オーナーには怒られてしまうかもしれないけど、この店に少なくない額を落としている彼が来店しなくなってもいい。しかし彼は気を悪くした素振りを見せず、ぐいと私に近付いた。

「でも、それで僕の顔覚えたよね?」

 間近に迫った顔に何も言えなくなる。一応、彼の言う通りである。

「通ったかいがあったな。そのために行きたくもない誘いを全部受けてたんだから」

 私の頭が、ある答えを導き出す。彼は女遊びをしている軽薄な男ではなく、実はその逆で、好きな人のために毎週会いたくもない女と会っていたのではないか。つまりは、と私が認めたくない結論を出そうとしたところで、彼が口角を上げる。

「僕五条悟。よろしくね」
「はあ……」

 私は名乗りたくなかったが、生憎胸のネームプレートが存在を主張していた。彼、五条は、何事もなかったかのようにまたテーブルに着いた。私のシフトが終わるまでいるつもりではなかろうな、と私は眉をひそめた。