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 聖臣が全国優勝を成し遂げた時、私は聖臣に告白した。冷静に考えれば、もっとタイミングはあったのかもしれない。普通なら相手ではなく自分が勝った時や、何か大きなことを達成した時に告白するだろう。でも普段冷静な聖臣の血が沸騰するような表情を見ていたら、我慢できなくなってしまった。聖臣は少し驚いたようだが、「わかった」と頷いてくれた。それから一年間、私達の付き合いは続いている。

 キスをすることはあったけれど、セックスはなかった。お互いにまだ早いと思っているのかもしれない。それが年齢に対してか、私達の関係性に対してかはわからない。優勝のほとぼりが冷めたらフラれるなどということもなく、私は安堵していた。それと同時に、付き合えば付き合うほど、不安は増していった。自分はズルをしたのではないか、果たして両思いかわからない状態で付き合ってしまってよかったのか。今でも聖臣が私を好きなのかはわからない。一番早いのは本人に聞くことなのだろうけど、それで好きではないと言われたら本当に終わりになってしまう。私はできるだけ、この不安を内部にとどめた。それでも時折、溢れ出てしまうものはある。

 夕方の通学路を歩いていた。井闥山高校は駅から近いので、喋らなければすぐに着いてしまう。それでも口を開いたのは、なんとなく今がその時ではないかと思ったからだった。

「私達、これでいいのかな」

 少し先の電柱でカラスが一声鳴いた。向かいから習い事帰りらしい小学生が歩いてきた。私達は完全にこの街に馴染んでいた。けれど、大学に進学してからも隣にいる未来は見えなかった。

「これだけ長く一緒にいられるってことは、何かしらの情があるんだろ」

 聖臣は独り言のように言った。その言葉は乾燥した空気と混じり合って消えた。聖臣の言う通りかもしれない。長続きできる程度には、私達は合っているのだ。それでも聖臣が恋や好きという言葉を使わず、「情」と言ったことに私は少しの寂しさを感じていた。寂しいくらいで、ちょうどいいのかもしれない。私達は止まらずに歩いた。駅が目の前に見えていた。別れて電車に乗ってもなお、私は聖臣のまとう空気に包まれていた。