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※従兄弟が話してるだけ
※古森にモブ彼女あり

「あっ、そういえば買い足しておかないと」

 古森がそう言い出したのは、部活帰りにコンビニに寄った時のことだ。古森のことだから、どうせバッグに仕込ませておくお菓子か何かだろうと思っていた佐久早は、実際に古森が手に取ったものを見て目を見開くことになる。古森が握りしめたのは、コンビニの衛生品コーナーに売っている避妊具、所謂コンドームだったのだ。

 高校生の男子ともなれば、格好つけとして避妊具の一つは持っている。かく言う佐久早も、財布に一つ忍ばせていた。とは言え全く使われないまま避妊具の袋は擦り切れて行くし、彼女とする予定があるわけでもなかった。クラスで派手な女子が誰としただの話しているのを聞いたことはあるが、そんなことは一部の人間だけだろうと思っていた。つまり、古森が一線を超えたということは、佐久早にとって紛れもなく予想外だったのである。

「おい」

 佐久早は思わず古森を呼び止める。古森は「え、何?」とあっけらかんとした表情で振り返った。

「その……した、のか」

 仮にもここは公共の場だ。佐久早が出来るだけ曖昧に尋ねると、古森はそんな佐久早の様子を笑った。

「そんな真剣に聞くことじゃねぇだろ、今時誰でもしてるって」
「そうなのか……?」
「いや、俺も卒業したのはつい最近だけど」

 そう言いつつも、避妊具を隠さずレジまで持って行く古森の姿は佐久早よりずっと大人に見える。古森は支払いを終えてコンビニを出ると、もう止めるものはなくなったとばかりに話し始めた。

「最初は抵抗あったけど、やっぱり好きな人と一つになるのは幸せっていうかさ。そりゃ一人でした方が気持ちいいけど、何て言うかこう、精神的な気持ちよさ?」
「ふーん……」

 古森が彼女もいて、明るく開放的な人間であることは知っている。だが古森がまさか、事を済ませているとは思わなかったのだ。佐久早は裏切られたような、羨ましいような気持ちになる。

「佐久早はどうなの? 苗字とちょっとはした? 服くらいは脱がせたことある?」
「おい、やめろ」
「人に聞いといて自分は言わないのはナシだろ」

 佐久早は葛藤の末口を開く。名前とのことを話すのは名前のプライバシーを侵しているようで気が引けたが、名前も恋バナなどしているだろうし、古森の言う通りフェアでもないし、まあいいか。

「……胸は、ちょっと触った」

 その言葉を聞いて古森が「おお〜」と声を上げる。

「で、セックスはいつすんの?」
「俺達にそういうことを求めるな」
「地味な子だってやってる時代だぜ? 意外と苗字、佐久早がしてくるのを待ってるのかも」

 佐久早は自分が名前に触れた時の名前の様子を思い出した。戸惑いつつも、どこかのぼせたような名前の顔。聖臣は潔癖だから、そういうの嫌いだと思ってた、と後になってから言われたことを思い出した。

「セックスしたらお互いのこともっと好きになれるし、離れていかなくなるよ」

 古森の言い方では、セックスがまるで相手を繋ぎ止めておくための手段ではないか。佐久早はそういうのではなくて、幸せになるためのセックスがしたい。

「俺らは俺らのタイミングでするんだよ」
「ふーん、まあそれが一番だよな」

 古森はあっさりとそう言って、コンビニの新発売のお菓子の話をし始めた。だが、今日の一件によって、佐久早の言う「俺らのタイミング」が早まったのは確かだろう。