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「努力は叶わない」

 及川は、一音一音はっきりと発音した。声に出すことでそれが現実であると確かめるかのようだった。私達は教室にいて、これから始まる部活のために準備をしているところだった。及川は窓辺に佇んで、床を見ていた。

 弱音を吐く相手に選ばれたことは、嬉しいと思っている。けれど私は及川の夢を叶えてあげることができない。私はただ及川に寄り添い、及川と共に現実を嘆くのだ。

「そうだよ」

 及川の眉がぴくりと動いた。及川はどこかで「そんなことないよ」という励ましの言葉を欲していたのかもしれない。私がそう言ったら及川は元気になったふりをするのだろうけど、励ましてもらったということに罪悪感を抱くのだろう。顔を上げる及川に対し、今度は私が床を見る番だった。

「私が毎度及川を慰めたって、及川は私のこと好きになんかならないじゃん」

 今この話を出すのはずるいかもしれない。けれど及川だってずるいのだ。私をどうとも思っていないなら、特別だと勘違いさせるような話をするべきではない。

「お前……この流れで言うかよ」

 及川は戸惑ったような声を出した。私は顔を上げることができない。及川はこういった弱音を吐く私を嫌いにならないだろうという甘えで、私達は成り立っている。

「俺だって、叶えたいと思ってる」

 及川が独り言のように言った。私はその意味を理解していた。叶えたいとは思ってる。でも、望みとはそう簡単に叶うものではないと、及川はよく知っている。私は今すぐ泣き出したくなった。及川は別に何も悪くないけれど、子供のように泣いて及川を困らせたくなった。