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 委員会決めをしていた時、美化委員に希望したのは私と斉木くんだった。私達はじゃんけんで決める形になったのだが、ちょうどその時辞退があったのだ。空席の出た放送委員は、好きなCDを流しておけば済むという、この学園で最も楽な仕事だった。当然、美化委員よりそちらの方がいいに決まっている。斉木くんも楽な仕事を求めているのかはわからないが、私は美化委員を決めるこのじゃんけんで負ける。

 私はチョキを出した。掛け声の影響でグーを出す人が多いと聞いたからだ。しかし斉木くんはパーを出した。放送委員になるためにわざと負けたのか、真実は迷宮入りである。美化委員の欄に私の名前が書かれる。まあ、美化委員も楽だからいいか。そう思っていた日の放課後、「彼」は唐突に訪れた。

「僕と君の子供が欲しいんだ」

 校門を出るなり待ち構えてそう言う男を、普通不審者と呼ぶだろう。私が通報しないのは、彼が歳の近い男性であるからだ。ついでに言えば、顔も整っているように思うが決して流されたわけではない。

 セクハラ発言をした後、彼は真顔で流れるように話した。

「勘違いしないでね。僕は君のことちっとも好きじゃないから。楠雄に勝てるところ以外はミジンコ程度にしか評価してないよ」

 一体何が目当てなのだろう。上げて落とされた気分だ。ツンデレとも言えなくはないが、セクハラ発言をデレと言うにはかなりの抵抗がある。

「楠雄?」

 そういえば、斉木くんの下の名前も楠雄だった。彼は自分を斉木くんの兄と名乗った。地味な斉木くんにジェットコースターのような兄がいるところは想像しづらい。顔をじっと見つめていると、斉木くんの兄は平然と胸に手を当てた。

「子供を作るなら君の体を分析していい?」

 その話は冗談ではなく、なおかつ続いていたのかと思わずにはいられない。ますます斉木くんとは似てもつかない。

「分析って、何を……」
「そうだなぁ、まずは服を脱いで身体検査と唾液の提出かな。舌出してくれる?」

 当然のように言っているが、斉木くんの兄は医者か何かなのだろうか。そうでなければただのセクハラだ。やはり私のことが好きなのではないかと思うが、彼の目からは何の感情も読めない。どうしたものかと思っていた時、背後に気配を感じた。急な出来事だった。私を庇うようにして前に出た姿に、男らしいこともするのだとときめくのは不可抗力だろう。

「あ、楠雄」

 斉木くんの兄が親しげに笑う。斉木くんは困惑した様子で私の顔を見た。いつも無表情な彼らしくない、私を慮るような表情だった。