▼ ▲ ▼

 私達の出した書類を見て、冴はげ、とでも言うような表情を作った。

「保証人は兄ちゃんにお願いするって決めてたんだ」
「冴、お願い」

 弟である凛と、二人の幼馴染である私。それぞれが冴に対し、愛とも憧れともつかない感情を抱いている。遂に結婚するという時、保証人を冴に頼むのは自然なことだった。私達はそれが当たり前であるかのように、何も言葉を交わすことなく冴の家を訪ねた。

 冴はテーブルからボールペンをとった。一度はチームのロゴが入った適当なボールペンを手にしたが、そのインクの頼りなさを見て仕方なさそうに腰を上げた。出てきたのは、何かの記念で貰ったらしい上等なペンだった。冴は流れるように署名する。一応、何かの感慨は抱いているらしい。私達はそれを満面の笑みで見つめていた。

「何で結婚する時より嬉しそうなんだよ」

 照れ隠しのように冴が尖った声を出す。結婚することになったと冴に報告したのは懐かしいことだ。どの友人や親よりも早く連絡したと言ったら、冴は少し驚いたようだった。

「お前ら俺と結婚すればいんじゃねーの」

 私達が冴を大好きであることは冴も知っている。ぶっきらぼうな冴の口からそういった言葉が出てくることが嬉しい。

「え、冴も新居くる?」
「もう三人とも家族だからな」

「家族」の部分を強調して凛が言った。私の言葉は本気でないとわかっていただろうが、冴が新居に転がり込んできても私達は何の抵抗もなく歓迎していただろう。

「冗談だっつーの」

 ほら、と丁寧に婚姻届を返される。保証人の欄には冴の筆跡で冴の名前が書かれていた。私達はそれを見て顔を合わせる。

「……結婚おめでとう」

 冴は少し寂しそうにしているけれど、結婚したからといって冴を仲間はずれにする気はさらさらない。などと言ったら、冴に怒られてしまうだろうか。