▼ ▲ ▼

 佐久早くんとの初めてのセックスが終わった時、佐久早くんは小さく手を握ってくれた。シャイな彼なりの愛情表現だとわかって、私は嬉しい気持ちになった。ピロートークなどなくても、心は満たされるのだ。そうして私達は初めてを無事に終えられるものと思っていた。

「俺は童貞を捧げたのに、先輩は何もくれないっておかしくないですか?」

 男性はやはり、賢者タイムというものがあるのだろう。少し経って、佐久早くんが冷静に話し始めた。その口調は今日の株価について話すような落ち着いたものである。佐久早くんにとって童貞はそれほど大事なのだろう。

「でももう処女はないし……」

 私があげられるものはない。そもそも、男女のコミュニケーションの最上位がセックスだと私は思っている。体を捧げて満足してもらえなかったら、私はどうしようもないだろう。

 布団が擦れる音がして、佐久早くんが私の方を向く。

「ぎゅっとしてください」
「それでいいの?」

 佐久早くんがこくりと頷いた。私も横を向いて、佐久早くんを抱きしめる。先程散々、粘膜同士で触れ合ったというのに、佐久早くんは満足げな様子だった。それが子供のようで可愛い、と思う。佐久早くんの母親にでもなった気分だ。

「これから一生かけて償ってくださいね」

 そう言う佐久早くんに思わず笑ってしまう。

「処女じゃないってそんなに悪いことかな」

 すると間を置かずに「はい」と答えるものだから、私は曖昧な笑みを浮かべた。さりげなく一生、という言葉を使っているが、とりあえず聞かなかったことにする。私は佐久早くんに頭が上がらないようだ。