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「そろそろ俺のこと好きになったか」

 校門から通学路へと差し掛かった時、佐久早は口を開いた。その口調はあくまでさりげないものだったが、佐久早が聞きたかったことなのだろうということは理解できた。私達の付き合いは「好きじゃなくてもいいなら」と始まったもので、それから私は進捗について伝えていない。

「わかんない」

 私は佐久早の隣を歩く。中途半端な時間だからか、他の生徒は殆どいなかった。佐久早は私に歩くペースを合わせてくれても、手を繋ごうとはしない。

「でも佐久早とキスとかしても嫌じゃないし」
「それは初めてじゃないからじゃねぇの」

 即座に返された言葉に、私は口をつぐむ。どこか恨みがこもっているように感じるのは、佐久早自身が初めてだったからだろう。キスをしても嫌ではない、という私の判断根拠はぼかされてしまった。他に確かめる方法は、キス以上のことをするしかないのだろう。なんとなく、私は佐久早とのセックスなら受け入れてしまう気がする。ただ、佐久早がなかなか手を出してこないというだけで。

「お前が好きだって思わない限りキス以上のことはしない」

 私が考えていることが伝わったかのように、佐久早が言い放った。一種の脅しのようだった。ある意味誠実ともとれるのだけど、私は餌でつられているような気がする。

「じゃあ、好きかも」
「お前な」

 佐久早は呆れたような顔をするけど、相手に触れたいと思うのだって好意の一種だ。好きな気持ちを説明できる人などいないのだから、もうこれは好きだということでいいのではないか。

「私の好きが偽物だって言うなら、佐久早の好きを説明してみてよ」

 そう言うと、佐久早はもどかしそうに黙り込んだ。