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「普通学生の間に自分の酔い方を覚えておくものじゃない?」
私は隣の佐久早くんを見た。彼は青い顔をして、個室居酒屋のソファ席に窮屈そうに横になっている。
「俺ずっとバレー優先で遊びも飲みも断ってたので……」
確かに、その言葉は本当らしかった。社会人になる前に酒の飲み方を覚えておくのが大人というものだ。異性とお酒を飲んだところで激しく酔う、吐くではいい雰囲気が台無しである。佐久早くんは今まで異性とお酒の力を借りることはなかったのだろうか。
「じゃあ童貞?」
酒に酔った佐久早くんを介抱したことで、私達の間にあった距離は縮まっていた。お近づきになれた、というより昔からの知り合いのようになった感覚だ。それがいいことなのか、悪いことなのかはわからない。
「いえ」
短く言った佐久早くんに違うんかい、と心の中で突っ込む。まあ佐久早くんなら異性に人気だろう。その度に酔い潰れているのかはわからないが。
佐久早くんが固く閉じていた目を開けた。
「でも、酒の力借りてまで口説き落としたくなった人は初めてです」
私は女のくせに、「初めて」という言葉に弱かった。私自身とうに初めてを捨てているくせに、目の前の佐久早くんの口から放たれるとみずみずしく感じるのだ。佐久早くんの純粋そうなところが、そうさせるのかもしれない。私は佐久早くんの頭に一度手を載せた。
「もうゲロ吐く姿まで見せたんだから恥ずかしいものないでしょ。今度は素面で誘ってよ」
黒目がちな瞳が私を見上げる。私は誤魔化すように酒を飲んだ。酒が入らないデートというのも面白そうだ。
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