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 これだけは言わせてほしい。冴は名前のことを好いていたのだ。愛していたし、大事にしていた。けれど世間一般のカップルのように行かなかったのは、冴がカメラに追われる立場――セレブリティだということだ。名前は、いつも冴との付き合いが世間に知られることを恐れていた。そして冴は、そのことを知っていた。だから、強引な手段をとったのだ。

 本日付の週刊誌を広げる。そこには、「期待の新星糸師冴、熱愛」の見出しが踊っていた。相手は一つ年上のモデルであり、名前ではない。

 撮られたことに関しては、完全に不意打ちだった。冴が付き合いで赤坂のレストランに入った時に、一緒にそのモデルも呼ばれていたのだ。週刊誌から冴の所属組織へ掲載予告が入った時、冴はどうでもいい、と言った。けれど上層部は冴のイメージを保つことに必死で、モデルとの件をもみ消した。これで一件落着に思えたが、そうはいかなかった。

 撮られたのだ。冴と、名前が。今度は偶然の鉢合わせではない、間違いのない熱愛だった。これには冴も顔色を変えた。すぐさまマネージャーを通じて週刊誌に連絡をとり、交渉を始めた。なんとかしてこの記事を出さないでほしい。代わりに、モデルとの件を報道していい――と。

 冴は名前を守ったのだ。報道が出ることを恐れていた名前のことを理解していたから、別の女との報道を出す形で、名前との記事をなかったことにした。今頃冴は安堵していることだろう。だが、勿論「お前との記事を出さないために別の女の記事で塗り替えたよ」など説明する甲斐性はない。今頃、名前は冴の熱愛報道に不安になっているだろう。これは冴の独りよがりだ。冴は気付かない。名前が今どんな気持ちで週刊誌を見ているか。あいつのためにしてやった、という満足感に溢れているのだ。悲しくも、冴の独善的な部分がすれ違いを生んだ。